清水浩 監督

〜映画“キッズリターン 再会の時”〜

あのキッズリターンが17年ぶりに蘇った。今回はシンジとマサルの偶然の再会からスタートする。勝てなくてボクシングを辞めたシンジに、刑務所からヤクザに復帰したマサルが“見返してやろうぜ”とはっぱとかける。傷だらけのふたりに道は開けるのか。

ソフトな笑顔と京都弁が優しくマッチしている清水浩監督。キッズリターンの制作について“いや、僕はたまたまお前やらないかって聞かれて”と笑顔で答えてくれた。前作ではチーフ助監督を務めていた。しかし今の日本映画界ではチーフ助監督まで勤め上げても監督業にたどりつくのは難しい。新人監督は台本を書いてもネームバリューがないので、プロデューサーになぜこの映画を作るのかアピールしなければならない。清水監督自身も映画どころかビデオを作るチャンスすら待っていた。そんな時に一作目“生きない”のオファーが来た。その後海外で数々の賞を受賞してきた清水浩監督にとってこの“キッズリターン 再会の時”は監督作品5作目となる。

この映画には監督自身のこだわりがある。キャストはプロデユーサーが用意した資料に監督自身が目を通し面接をして主人公を選んだ。主人公シンジとマサルの関係性だけを伝え作品に共感してくれる役者を選び、さらに音楽も2人に合うものを選んだ。シンジ役の平岡祐太は3ヶ月以上に及ぶボクシングのトレーニングで体を鍛えた。監督はシンジの対戦相手全てにプロボクサーを起用した。 マサルについて尋ねると、マサルは自分がヤクザの世界でしか生きられないとわかっていて、シンジがボクシングで成功してくれる事が彼自身の夢なのだと話してくれた。映画の中で恐喝してお金を儲けているヤクザ達だが、物事に義理や筋を通すピュアな姿勢も同時に描かれている。そして警察は時代の権力を象徴する。 理想や夢の前に大きく立ちはだかる権力、本当はこうであるべきなのにどこかでねじ曲げられている現実とのギャップなど、“これはボクサーやヤクザだけの特別な問題ではない”と監督自ら語る。

監督はバンクーバー在住の皆さんにもいろんな事を経験してほしいと話してくれた。“経験にマイナスな事はない、むしろ後で力になってくれる。”映画を例にとると、登場人物を描く時に自分の失敗をそこに重ねたり、実際に見た人を登場させたりもできる。そして自分で撮ったものを人に見せると、自分の考えが表現できたか、また自分には何が必要なのかが見えてくる。“キッズリターン 再会の時”は“男くさい話”だが、同時に戸惑っている全ての人たちへのエールでもある。皆さんにこの映画を見て‘明日はやってやるか!’という気持ちになってほしいと監督は締めくくってくれた。

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