塩田明彦監督
海、車、そしてビッグなラブストーリー
映画監督、脚本家、映画批評家など多方面で活躍している塩田明彦監督。今年は手がけた新作映画3本がバンクーバー、釜山、ロカルノなどの国際映画祭から招待された。バンクーバー国際映画祭のプログラマーで映画評論家のトニー•レインズ氏によると「原点回帰の年」と言うぐらいどれも監督の初期に戻ったような作風に仕上がっている。中でも日活から飛び出した新作『風に濡れた女』は今年のロカルノ国際映画祭で見事インターナショナル部門•若手審査員賞を受賞したばかり。内容はソフトポルノだが独特な描写で現地の女性にも十分に受け入れられた。しかしレインズ氏によるとその作品は放っておいても売れるもの。むしろ塩田監督の全く違う一面を魅せる『昼も夜も』と『約束』をあえてバンクーバーに選んだそうだ。どちらも配給会社のないインターネット用の作品で、監督自らの自費で英語字幕をつけた作品。『昼も夜も』はハートブレイクホテル的な男女の愛が描かれている。監督によるとそれは全くの偶然だったそうだ。始めは中古車にある車の中に一人の女性が居着いてしまって若いオーナーとトラブルが起こるというコメディーを描くつもりだった。しかし居場所を転々と漂流している女性の理由を考えた時にあの東北震災のイメージが頭をよぎったそうだ。時間は経っても、まだ住む場所が定まらず転々とさまよっている人たちが現実にいる。映画の女性もそうだった。そして同じように辛い過去を背負い車一筋に生きている主人公の男性。一見重いテーマを感じるが、塩田監督の映画は決して重くない。むしろ80年代の海に似合うような軽快なサウンドと映像が一致していて、とても爽やかだ。震災を組み込んでいてもあくまでもラブストーリーが中心と監督は語る。監督自身もラブストーリーが好きだと自覚しているそうだ。
バンクーバーは今回で2回目。初めて来た時は監督•脚本を務めた映画『どろろ』で、アクション監督のチン•シウトン(トニー•チン)と打ち合わせをするためだった。10年ぶりの今回は監督として訪れた。読者のために「次も必ず一癖ある映画を持ってきますのでまた観に来てくださいね」と優しく笑った。次作にも大いに期待できる。
Lifeline (昼も夜も)/ The Promise (約束)
監督:塩田明彦
生き残った罪を背負うということ
大切にしているものを失った心の空白を埋めようとするハート•ブレイク•ホテル的な男女の切ない映画。亡くなった父の跡を継いで仕方なく中古車店を経営している青年•良介(瀬戸康史)のもとにある日、男性に置き去りにされて帰れなくなった女性•しおりが現れた。車で送っていく途中、しおりは死んだ犬の話をし始め、良介は彼女もあの「震災」を体験したと知る・・・。バツイチの父と若い娘の『約束』との二本立て。
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