藤川史人 監督

〜広島へ行きたくなるような美しい作品〜

大学時代から短編、自主映画長編は2作目という藤川監督は、今回初めての国際映画祭入りを果たした。『いさなとり』の制作にあたって個人的な時間も意識したという。映画の舞台となった広島県三次市出身で、自分の中学生時代を思い出しながら作った作品だ。主人公•ユウタの家は自分が実際に育った思い出の家でもある。主演の子役は全員演技経験のない地元の子供たちだったので、1週間ほど一緒に時間をすごしてから1ヶ月の撮影に入ったそうだ。

広島出身の監督らしく広島を紹介したい思いが伝わるような半分ドキュメンタリー、半分フィクションという感じの描写が光る。監督はジャンルの境界線を引かずに純粋に映画だけを目指して作ったという。ストーリーが弱くなるかもしれないという覚悟だったが、お祭りの風景などカナダの観客が楽しむ光景が十分見れて自然に仕上がっている。特にくじらの風船は見逃せないシーンで、東京から人を呼んで2日がかりで撮影したそうだ。気になるくじらの化石だが「見つかったらいいな、でも見つからないだろう」と笑った。

本作では新たな課題や発見があった。観客から確かな手応えもあり次に進めるとも思った。『いさなとり』はすでにぴあ映画祭で観客賞をとり、日本映画ペンクラブ賞も受賞している。バンクーバーの後、新たな感触を得た監督の次作品に大きく期待したい。

俳優の平吹正名さんときむらゆきさん:『いさなとり』で主人公•ユウタの両親を演じた平吹さんときむらさん。演技経験のないユウタに対し、平吹さんはわざと距離感を置き、本番以外はほとんど喋らないで、中学生が初めて出会う義理の父になりきった。逆に母親役のきむらさんは広島•三次市の言葉に馴染み、ユウタとは寝る以外、ずっと一緒に過ごしたそうだ。二人とも常に俳優らしい雰囲気で上映後も気軽に写真撮影に応じていた。

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