廣木隆一 監督


ワールド・プレミア『ここは退屈迎えに来て』

これまでバンクーバー国際映画祭に度々招待されてきた廣木監督。 久しぶりに訪れたバンクーバーは高層ビルが多くなり、 ホテルの窓から見える風景が違っている と感心していた。1982年のデビューからこれまで多くの作品が批評家トニー・レインズ氏をはじめ海外プログラマーに推薦されてきた。コマーシャルはもちろんだが、ピンク、恋愛、青春など、特に女性を優しく扱った作品を中心に海外でも根強い人気がある。今回はVIFF本部のあるバンクーバー・サットンホテルでお話を伺った。


ジャンル分けにこだわらない

廣木監督といえば、2000年にVIFFに招待された映画『不貞の季節』を思い浮かべる人もいるだろう。ピンク映画ではなかったが、裸の入った作品でSM小説家とその妻との奇妙な恋愛関係を描いた作品で話題になった。さらに監督は少女漫画の映画化作品にも定評がある。例えば大ヒットした作品の『PとJK』では、警察官と16歳の女子高生との恋愛が描かれた。警察という仕事柄、未成年との交際など普通ではありえない関係だが、観客をその世界に引きずり込むために監督は、外見の関係よりも恋している二人のリアルさに目線をずらしたという。また「ピンク映画も恋愛映画も作る時は全て同じ」と意外な言葉がかえってきた。例えばピンクや恋愛映画の中にアクションを盛り込めば、その量によってカテゴリーも変われるからだ。


小説と映画

2015年に『彼女の人生は間違いじゃない』で小説家デビューして2017年に映画化している廣木監督。小説と映画の両方を自分で作れるというのは夢のようだが、監督は自分で小説を書くとその世界観から出られないと指摘する。そのため自分の小説を映画化する時は、脚本を別の人に任せ、ディスカッションをしながら進めていく。「他人の目を一つ入れる」ことが大事なポイントになるそうだ。また小説はいったん書き上げると作品が自分の中で完結するため、映画ではまた別のものを作ろうという気持ちで取りかかっている。違う目線になってまた新たに完結させたいとする反面、「つまらない原作だ、いったい誰が書いたんだ、あ、俺だ」と思ったことがあると監督は笑いながら話してくれた。

監督は映画『さよなら歌舞伎町』や今回の『ここは退屈迎えに来て』のような群像劇で、主人公が一人でなく複数の登場人物によって一つのテーマが見えてくるという映画作りを好む。例えばエピソードごとに主人公がいて地方で生活している人の様子など描くことにも興味があるそうだ。

世界初上映『ここは退屈迎えに来て』で今回は主演女優の橋本愛さんと一緒に来加した監督。カナダのプレスやラジオ局とのインタビュー、プレス・コンフェレンス、レッド・カーペットなど、アジア映画では異例な多忙スケジュールだが、「今回は現地の友達にも会うつもり」と気さくな笑顔で次の場所に向かった監督。現在取り組んでいる監督の次作品にも注目したい。

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