武正晴監督

ロッテルダム国際映画祭を沸かせた「技術屋」監督

2014年の東京国際映画祭でトニー•レインズ氏が日本映画スプラッシュ部門作品賞を発表した時、世界の映画関係者が初めて武監督の顔を知りました。映画『100円の恋』を見た人は、この作品がとても新人監督のものらしくないと気がつくでしょう。それもそのはず武監督はスタッフ、特に助監督歴がかなり長い方です。「監督になって真面目になりました」と照れる監督。初めは石井隆監督のようにずっと続ける力や、森崎東監督や井筒和幸監督の底力を見て圧倒されたそうです。それぞれ個性ある才能の塊のような監督たちが映画に向き合う姿勢を見ていて、自分にできるかなと感じたこともあります。でも同時に監督たちが撮影する背中ごしから、彼らの発する「どんなに追い詰められても絶対に負けないで向かっていくエネルギー」を覚えました。助監督中はただ忙しかったけれども、監督になって責任も大きくなり、勉強のために自ら映画も進んで観るようになったそうです。「サボっていたわけではないが、やる気も出たし、あの時の監督の思いがわかるという新たな発見もありました」と監督は語ります。

この作品の前に作った映画『イン•ザ•ヒーロー』の中で、武監督は主演の唐沢寿明さんがアクションのトレーニングをしていく過程を見学しました。難しい課題を与えた時に俳優が無我夢中になって練習する姿は素敵です。できるだけ一緒にいてその様子を見るのが演出につながるし、リハーサルでもあるそうです。「映画を観ると話より出ている俳優の頑張った姿に感動できる」と監督は続けます。ロッテルダムでは映画を振り返り「最終シーンの彼女の鍛えられた体を見てびっくり。日本に安藤サクラさんがいてよかった」と褒め「ボクシングであっと思わせるシーン、あれは本物です。安藤さん、ゴメンなさい」と会場を笑わせました。彼女のようにシナリオを読んだ女優が本気になると、監督とは「ガソリンと火」の関係になるそうです。お芝居は俳優に任せるが、出てきたものどこまで燃焼させたら良いか、どういう形で観客に届けるかなど「技術屋」としてそれを考えるのが一番楽しいと監督は話します。

また「上映会にたどり着くまでは辛い事の方が多い」ので、プレミア上映会はいつも楽しみだそうです。東京の後は韓国•プチョンで多くの大物監督を抑えてNETPAC賞(最優秀アジア映画賞)を受賞。その後ニューヨーク、フランクフルト、パリなどを経て、ここロッテルダムからも招待されました。もちろん『100円の恋』は国内でも賞を受賞しています。「人生において勝ちたくても勝てない人の方が多い。自分もそうだった。だからそういうANGERとHUNGERな気持ちを作品にしたかった」と語る監督にロッテルダムの会場から大きな拍手がわきました。「勝つ事だけが幸せじゃない」と誰もが納得出来る素敵なロッテルダム上映でした。


勇敢でハードボイルド、でも楽しくて驚くほどセクシー  トニー•レインズ


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